癌性疼痛(がんによって引き起こされる痛み)
癌性疼痛はがんによって引き起こされる痛みであり、患者にとって身体的・精神的な負担となります。この痛みは、がん自体の影響だけでなく、治療の副作用や進行に伴うものがあります。
神経学的に分類すると、「痛み」は侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛の3つに分類されます。それぞれの痛みには独自の特徴があり、これらを理解し適切にアプローチすることにより、痛みが軽減され、生活の質が向上させることが可能です。
癌ではさまざまな臓器に腫瘍や抗がん剤の薬剤に直接障害がおこることで、下記の体性痛や内臓痛といった侵害受容性疼痛を引き起こすとともに、腫瘍による神経の圧迫や薬剤の副作用による神経障害性疼痛、日夜腫瘍のことに頭がとらわれてしまい痛みに過敏になる痛覚変調性疼痛といずれの痛みも経験しうることになります。
癌にともなう体性痛
がんが身体の皮膚や骨、関節、筋肉、結合組織組織や筋肉に、切る・刺す・圧迫するなどの機械的刺激を与えることで引き侵されます。
症状: この痛みは通常は局所的で、痛む部分にしこりや腫れを伴うことがあります。しばしば鈍痛や鋭い痛みとして感じられます。さらに体を動かしたときに痛みが強くなるのも特徴です。
例: 乳がんによる胸部の痛みや、手術後早期の傷の痛み、筋肉や骨に転移がある場合の痛みなどが挙げられます。
原因: 体性痛の主な原因はがんが組織や筋肉に直接影響を及ぼすことでおこります。腫瘍の成長や周囲の組織へ進展し、また時には局所に炎症が引き起こされることで刺激が加わります。それらがAδ線維・C線維という2種類の感覚神経を経由して痛みを感じることになります。
治療法: 解熱鎮痛薬、麻薬(オピオイドなど)、骨転移の痛みに対しては骨粗鬆症の治療薬なども用いられます
癌に伴う内臓痛
内臓痛はがんが食道・胃・小腸・大腸などの消化管の炎症や閉塞、肝臓・腎臓・膵臓などの炎症や圧迫、臓器を包む膜がひきのばされる際に、しばしば強い不快感や圧迫感として現れます。
症状: 内臓痛は一般的に局所的でなく、深い部分から発生するため、患者は痛みを特定するのが難しいことがあります。痛みはしばしば鈍く、不快な感覚を伴います。
例: 消化管の閉塞による腹痛、肝癌・肝転移による右上腹部痛、すい臓がんによるみぞおちの痛み・背中の痛み
原因: 内臓をつつむ膜が引き延ばされたり、腫瘍に侵されたりした場合に、C線維という末梢神経を主として脳に刺激が伝わることで痛みとして感じます。
治療法: 消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)では効果が不十分であることが多く、麻薬を用いることが多いです。また内臓神経ブロック・下腸間膜動脈神経叢ブロック・上下腹神経叢ブロックなどといったお腹の深い部分の痛み止めの注射が有効なことも多いです。院長はもともと数多くの同ブロックの経験があり、今後は透視装置(特殊なレントゲン装置)を準備でき次第、患者様に還元できればと考えています。
癌にともなう神経障害性疼痛
神経障害性疼痛は癌そのものや、抗がん剤などに薬剤が神経組織に直接影響を与えることによって生じ、しばしば激しい痛みを引き起こします。
症状: 神経障害性疼痛はしばしばピリピリとした感覚や電撃のような痛みを伴います。この痛みはしばしば患者の日常生活に深刻な影響を及ぼします。
例: 神経障害性疼痛の例としては、がん治療に伴う末梢神経の損傷による手足の痛みが挙げられます。
原因: 腕神経叢への浸潤(腕にいく神経へ腫瘍がくいこんでしまう)による腕のしびれや痛み、脊髄転移・圧迫による背中の痛み、化学療法後の手足のしびれ・痛みなど
治療法: 消炎鎮痛剤では不十分であることが多く、抗てんかん薬や抗うつ薬が使用され、神経の過剰な興奮を抑制します。また、リハビリテーションや神経ブロックも有効なアプローチです。
癌性疼痛は上記の種類のいずれかということは少なく、何種類かが組み合わさっていたり、また心理・社会的な要因も重なることで非常に複雑であることが多いです。まずは原因を探り、適切な治療法の選択と患者および家族へのサポートが痛みの管理に重要です。緩和ケア医として痛みの治療に頭を悩まし続けた経験は何かのお役に立てるかと思います。ぜひご相談ください。