多彩な治療の選択肢があります
周術期の痛みのコントロールをおこなう麻酔科医、癌患者の様々な痛みに対応する緩和ケア医、そして痛みのメカニズムの研究者としての知識と経験を活かし、「痛み止めのスペシャリスト」として、治療にあたります。
一般的な痛み止めのほか、精神科の薬やてんかんの薬など、痛みの種類に応じて、様々なメカニズムで鎮痛作用を発揮する薬があります。また注射や物理療法、診察時の認知行動療法的指導などを組み合わせた治療をおこなうことが可能です。ぜひ当院にご相談ください。
薬物療法(内服、張り薬による治療)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
NSAIDsは身体の炎症を抑えることで全身の痛みや発熱を和らげる薬物です。これらの薬は、特定の酵素を阻害して炎症を引き起こす物質の生成を減少させます。これにより、関節炎や捻挫、頭痛などの痛みが軽減されます。ただし、長期使用や高用量では胃腸の粘膜や腎臓に影響を与える可能性があるため、適切な摂取方法を守ることが重要です。
抗けいれん薬
抗けいれん薬はもともと「てんかん」の治療に用いられていた薬で、主に神経系統の興奮を抑え、上記の内服薬では効果の乏しい神経痛や慢性的な疼痛に効果をしめします。これらの薬物は神経伝達物質の働きを調整し、異常な神経の興奮を抑制することで痛みを和らげます。一般的には帯状疱疹後の神経痛や椎間板ヘルニアなどの神経根症状(ビリビリ、ひきつれるような、電気が走るような痛み)に用います。ただし、脳を含め神経全体に作用するため、眠気やふらつきが出ることが多いため、少量から慎重に使用する必要があります。
ステロイド
ステロイドは免疫系を抑えることで炎症を抑え、関節炎や腰椎椎間板ヘルニアなどの痛みに効果を発揮します。炎症が落ち着くことで、組織のむくみも取れるため、他の治療法と組み合わせた場合に、効果の即効性や持続性をあげる働きがあります。しかし、漫然と使用すると、免疫系の抑制(感染症をおこしやすくなる)・骨の密度が低下・胃腸に対する刺激が強い・高血圧や高血糖になりやすくなるなど様々な副作用があるため、短期的で適切な投与が求められます。
オピオイド
オピオイドは中枢神経系(脳や脊髄)に作用して鎮痛効果を発揮します。これは脳や脊髄のオピオイド受容体に結合し、痛みを感じる神経信号を抑制します。一般的にはがん疼痛や手術後の鎮痛に使用されますが、一部の薬剤は慢性疼痛にも適応が認められています。経験上、ほぼすべての種類の痛みに効果を発揮し非常に強力な印象がある一方、吐き気・眠気・便秘などの副作用が出やすいです。また「麻薬」とされる薬剤の多くがこのオピオイドを含んでおり、依存性があるため、使用経験に富んだ医師のもと厳格な管理が必要です。
抗うつ薬
抗うつ薬は神経痛や精神的な要素が多く関与する慢性的な疼痛の緩和に用いられます。これらの薬物は中枢神経系(脳や脊髄)の神経伝達物質のバランスを調整し、痛みへの感受性を軽減します。直接的に痛みを抑える働きではないためか、痛み止めとしての効果は数週間程度かかる方もおられますので、焦らず使用いただく必要があります。またうつ病の薬でもあり、脳に直接作用しますので、体がそわそわする・眠気・ふらつき・便秘など、副作用には留意しながら使用いただく必要があります。
漢方薬
漢方薬は伝統的な中医学の考え方に基づく薬剤で、身体のエネルギーのバランスを整えることで痛みにアプローチしますので、一般的には効果が表れるまで数週間程度かかる印象があります。効果や安全性には個人差があり、その程度は患者様によって異なります。専門医の指導を仰ぎながら、個別に合わせた使用が求められます。
さまざまな薬剤を患者様の病状に応じて使い分ける、あるいは組み合わせながら痛みの治療を行います。どの薬を使う場合にも目的、予想される効果、副作用を十分に説明し、よくご理解していただいてから開始するように努めておりますのでご安心ください。
注射による治療(ブロック療法)
頭部
三叉神経末梢枝ブロック(眼窩上神経・眼窩下神経・オトガイ神経ブロック)
三叉神経末梢枝ブロックは、三叉神経の末梢枝に麻酔薬を注射することで、頭部の疼痛を軽減します。帯状疱疹や軽度の三叉神経痛ではこの注射により、三叉神経が伝える痛みの信号が抑制され、頭痛や神経痛の緩和が期待できます。
大後頭・小後頭神経ブロック
大後頭・小後頭神経ブロックは、頭部後部の神経に麻酔薬を注射することで、頭痛や肩こりなどの頸部の筋肉の緊張を和らげます。これにより、頭部の神経に起因する痛みが軽減され、患者の快適な状態が期待されます。
首
星状神経節ブロック
星状神経節ブロックは、星状神経節に麻酔薬を注射することで、過剰に興奮した交感神経を休めさせ、血管を拡張することで、頭部や首・肩・腕の疼痛、しびれなどの症状を和らげます。まためまいや耳鳴りを改善する作用も報告があり、生活の質が向上します。
①頸部神経根ブロック
頸部神経根ブロックは、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などにより圧迫を受けた頸椎の神経根に麻酔薬を注射することで、首や肩、腕に発生する神経痛や炎症を軽減します。これにより、頚椎の問題に起因する痛みが抑制され、生活の質が向上します。また圧迫を受けた神経根がどれなのかを調べるための診断的治療として行うこともあります。
②頸部硬膜外ブロック
胸部硬膜外ブロックは、胸部の脊髄や神経に近い硬膜外領域に麻酔を注射し、神経伝達を一時的に遮断します。これにより、痛みをとるだけでなく痛みのため悪化した血の巡りを改善させ、頸や肩の疼痛や頭痛の症状を比較的長期的に改善させることができます。
椎間関節ブロック
椎間関節ブロックは、椎間関節(背骨の後ろの方あるつなぎ目)に麻酔薬を注射して炎症を軽減することで、頚椎や背部の痛み(寝違えやムチウチのような痛み)を和らげます。これにより、椎間関節の問題による痛みが軽減され、生活の質が向上します。
肩
①肩甲上神経ブロック
肩甲上神経ブロックは、肩甲骨上の神経に麻酔薬を注射することで、肩や上腕の疼痛を和らげます。これにより、肩関節や周囲の筋肉の痛みが緩和され、肩の動かしやすさなどが向上します。
②肩甲背神経ブロック
肩甲背神経ブロックは、肩甲骨と肩甲骨のあいだあたりの痛みに対して、麻酔薬を注射して痛みを和らげるもので、肩甲背部の筋肉の緊張を緩和します。これにより、肩周りの痛みやこりが解消され、日常生活が快適になります。
③肩関節内注射
肩関節内注射は、四十肩などの肩関節そのものの痛みに対して行うことがあります。肩関節に麻酔薬や抗炎症薬(ステロイド)を注入し、関節内の炎症や痛みを抑制します。これにより、肩関節の痛みや動きが改善され、肩関節の機能が回復します。
④肩峰下滑液包注射
肩峰下滑液包注射は、肩峰下滑液包(肩関節のクッション)に麻酔薬やステロイドを注入し、肩関節周辺の痛みや炎症を緩和します。これにより、肩の運動制限や痛みが軽減され、日常生活が改善します。
胸部
①肋間神経ブロック
肋間神経ブロックは、肋間神経に麻酔を注射して、胸部の疼痛や神経痛を和らげます。注射により神経の感受性が一時的に低下し、痛みが軽減されます。肋間神経が伝える痛みに対する効果が期待できます。
②胸部硬膜外ブロック
胸部硬膜外ブロックは、胸部の脊髄や神経に近い硬膜外領域に麻酔を注射し、神経伝達を一時的に遮断します。これにより、痛みをとるだけでなく痛みのため悪化した血の巡りを改善させ、痛みの症状を長期的に改善させることができます。帯状疱疹は胸神経領域(鎖骨の下からへその下あたりまで)の皮膚にできることが最も多く、これによる神経痛(ビリビリ、ひきつれるような痛み)に対して行うことが多いです。
上肢(手)、下肢(足)
腱鞘内注射
腱鞘内注射は、手や足の腱鞘に麻酔や抗炎症薬を注射し、腱鞘内の炎症や過剰な摩擦を軽減します。これにより、腱鞘炎や関節周囲の痛みが軽減され、手足の動かしやすさが向上します。
関節内注射
関節内注射は、関節内に麻酔や抗炎症薬を注射して、関節の炎症や痛みを和らげます。注射により関節の内部の炎症を抑制し、変形性関節症や関節炎に伴う痛みが軽減されます。
腰部
①腰部硬膜外ブロック
硬膜外ブロックは、脊髄や神経に近い硬膜外領域に麻酔を注射し、神経伝達を一時的に遮断します。この働きにより、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などで硬膜外に生じた炎症や圧迫に起因する腰痛や坐骨神経痛が和らぎます。
②椎間関節ブロック
椎間関節ブロックは、椎間関節に麻酔を注射し、関節の炎症や痛みを軽減します。注射により関節の内部の炎症を抑制し、変形性関節症や椎間関節炎に伴う腰痛が軽減されます。
大腰筋筋溝ブロック
大腰筋筋溝ブロックは、大腰筋の筋溝に麻酔を注射し、腰部の筋肉の緊張を緩和します。注射により大腰筋の過度な収縮が防がれ、腰痛や坐骨神経痛の症状が和らぎます。
臀部(おしり)
①仙骨硬膜外ブロック
仙骨硬膜外ブロックは、仙骨周辺の硬膜外領域に麻酔を注射し、仙骨神経の感受性を低下させます。これにより、仙骨神経痛や仙腸関節炎に伴う臀部や下位腰椎(おしりや腰の下の方)の痛みが和らぎます。
②仙腸関節ブロック
仙腸関節ブロックは、仙腸関節周辺に麻酔や抗炎症薬を注射し、仙腸関節の炎症や痛みを和らげます。慢性的な腰痛の多くは仙腸関節にもなんらかの原因があることが多く、この注射により腰部や臀部の痛みが緩和され、動作が楽になります。
③梨状筋ブロック
梨状筋ブロックは、梨状筋に麻酔や抗炎症薬を注射し、筋肉の緊張や痙攣を和らげます。この注射により、梨状筋症候群や坐骨神経痛に伴う臀部や下肢の痛みが軽減され、生活の質が向上します。
④坐骨神経ブロック
坐骨神経ブロックは、坐骨神経に麻酔や抗炎症薬を注射し、坐骨神経の過剰な刺激や炎症を軽減します。これにより、坐骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアによる放射痛が和らぎ、日常生活の動作が楽になります。
そのほかの注射治療
トリガーポイント注射
トリガーポイント注射は、特定の筋肉に発生した痛みやこりの中心であるトリガーポイント(痛みのツボのような部位)に麻酔や抗炎症薬を注射します。これにより筋肉の緊張が緩和され、血流改善や痛みの軽減が期待されます。日常的な筋肉の不快感や慢性的な痛みに対して効果があります。
筋膜リリース(ハイドロリリース)
筋肉の痛みの原因は筋膜(筋肉を包む膜)にあると考えられています。その痛みを起こしている部位の筋膜に生理食塩水を正確に注射することで、癒着を解除することで筋肉の動きをスムーズにするとともに、筋膜の圧迫を緩め、痛みのもととなる炎症物質を薄める働きがあります。上の図は肩の筋肉ですが、肩こりに対してもこのように幾重にも重なった筋肉の隙間に注射をおこないます。
使用する生理食塩水は人体に吸収されても無害で、繰り返し行うことによる副作用も非常に少ないのも特徴のひとつです。ただし、麻酔薬を使用していないため、こちらの治療は自費診療となります。料金をご確認の上、ご希望をお伝えください。